詰まった時には〜裏話:大仏先生編

毎度お馴染み大仏先生。
今日も超多忙で、外来が終わったのは午後2時。
急いで病棟に行き、透析の患者さんを見て回って。
相変わらずどたどたと走り回っています。

やれやれと医局でご飯を食べる大仏先生に、またもや電話が。
たまたまその場にいたウッキーが出たところ、病棟で何やらあった様子。
ウッキーがまごまごしていると、「替われ」と受話器をひったくられた。
「なんじゃ」
口の中でご飯をもごもごしながら、指示を飛ばしている。
電話を切って、その後もまたぶつぶつ言っている。
どうしたのかな。

「何かあったスか?」

ウッキーの問いに、味噌汁を二口で飲み干した大仏先生が答えた。

「チューブが詰まったとよ」
「はあ」

患者さんのお腹の中に入っているチューブが詰まったらしく、どうしたらいいのかと問い合わせがあったようで。

「ったく事前に指示してあるのに何度も何度も聞いてきやがって。何やっとんじゃ病棟はっ」

おっ、プチ怒りが出てるようで。
これはあまり機嫌を損ねないように、黙って話を聞くに限る。

そう思い、ウッキーは黙って「皆忙しそうですねぇ」と当たり障りのない返事をする。

その時、いきなり大仏先生が箸を止め、がばっ、と顔を上げた。

「こういう話、何て言うか知っとるか?」
「…へ?」

いきなりの問いに、ウッキーは思わず間抜けな返事をしてしまった。
でも大仏先生が何やら楽しそうにウッキーの答えを待っているようだったので、とりあえず考えてみた。

チューブが詰まった時に? 何て言うか? 
「チューブが詰まった」じゃないの?
それとも管理士らしく「人工的に挿入したプロステーシスの機能的閉塞」とか言うの?

結局分からず、降参した。

「えーと……何て言うんですか?」

すると大仏先生は胸を張り、いかにも自信たっぷりにこう言った。


ツマラナイ話


ひゅうぅうぅうぅうぅぅぅ〜…
(木枯らしが吹く音↑)


「この程度のことが分からんとは、おぬしもまだまだじゃのーハッハッハ!」

ハッハッハじゃねえええっっ!
しかも胸張って言うことかぁっ!
くだらんオヤジギャグ言っとるヒマあったらさっさと書類仕上げんか!

そう視線で訴えているウッキーなどお構いなしに。
大仏先生はおかずの野菜炒めを三口で食べきったのでした。

原発不明癌の、原発〜裏話:思い出のカルテ編

思い出のカルテ、というわけではないのですが。
以前勤務していた先生が暇つぶしに話してくれた、お話です。



悪性新生物、つまり癌は、一つ出現すると転移することがあります。
転移。
漢字のそのままの意味のごとく、転じて移動するんです。


病名でよく見るのは↓
転移性肝腫瘍(肝臓に転移した)
転移性肺腫瘍(肺に転移した)
転移性腹膜播種(腹膜に転移した)
転移性骨腫瘍(骨に転移した)
…などです。


転移のことを英語で「metastasis」といいます。
日本語読みすると、「メタスタイティス」。
だから「メタはなし」とか「肺にメタ」とか「メタメタやなこれは」なんて言ったりします。


転移するということは。
もともと体のどこかに、癌がすでにあったということになります。
それを「原発」と言いますが。


ごくたまに、この「原発」が分からない時があります。
医者は必死になって調べますが、どこにも異常が見当たらず、やむを得ず「原発不明癌」という病名をつけます。


もうちょっと詳しく説明すると。
体の一部に悪性腫瘍と思しきものが見つかり、生検なり手術なりして、病理検査してもらいます。
すると病理から「これは転移性です」と返事が来ます。
「てことは原発がどこかにあるはず」ってんで、CTやらMRIやら骨シンチやらで、必死に探すわけです。
それでも、見つからないことがあります。



さて、そんな原発不明癌のお話。
(長い前置きやな)


ある患者さんの肺に、癌が見つかりました。
病理検査してみたところ、転移性であることが分かりました。
あらゆる検査をして原発を探しますが、見つかりません。
その患者さんは昔、目の手術をしていました。
片方の目は義眼でした。
医者はふと、その目のことについて聞いてみました。
かれこれ10年以上前に、摘出してしまったとのこと。
医者はその手術をした病院に、問い合わせてみました。
すると何と、その頃のカルテが残っていました。


肺の転移の原発は、その摘出した眼球にあった、癌だったのです。
しかもこの場合、摘出された眼球もちゃんと保存されていました。



ある患者さんの骨に、癌が見つかりました。
検査したところ、転移性であることが判明しました。
さらに検査をしましたが、どうしても原発が分かりません。
医者はその患者さんの背中に、何やら傷跡があることに気づきました。
聞いてみると、はるか昔にできものができて、それを取った時の痕とのこと。
医者は念のため、その処置をした病院に問い合わせてみました。
すると何と、その時の記録が残っていたのです。


その患者さんの骨転移の原発は、除去したその背中のできものだったのです。



この話を聞いて、ウッキーは思わずうなってしまいました。
原発不明で終わらなかったのは、最初の診療記録がきちんと残っていたからです。
(しかも標本も残っていた!)
古い記録でも、やはり大事に保管すべきなのだと、改めて思ったのでした。

カルテがない!〜裏話:思い出のカルテ編

むかぁし。
「お金がない!」っつードラマとか。
「免許がない!」っつー映画があったような気がするけど。


カルテの管理人(?)として、一番怖いもの。



カルテが行方不明!



管理しているのは人間です。間違いがあって当然です。
自分はカンペキに管理している!と自信を持っていても、カルテを扱うのは人間であり、複数の人間がカルテを扱います。
カルテの管理人のミスではなく、カルテを持ち出した人によって行方不明になる可能性も十分にあるのです。
カルテ一つ一つに発信機をつけて、毎日アリバイをチェックするくらいの時間と労力と人員とお金なんて、どこをどう頑張っても出てこないし。


でも、ウッキーのささやかな経験から一つ学んだこと。



行方不明になるカルテに限って、利用頻度がめちゃ高い。



警察が使うとか。
診断書を書かんにゃらんとか。
褥創のチェックをしたいとか。
連絡先を知りたいとかとかとか…。


そーゆーカルテに限って、貸出頻度が高く、難しい症例の場合が多いのです。
当然といっちゃ、当然ですけれども。


一番困るのは、「また貸し」です。
「あ、ちょーどよかった、そのカルテ私も見たかったのよ。ちょっと貸して」
とゆーのがどんどん広がり、しまいには「あれ、誰が持ってったっけな…」で終わるのです。
それだけは勘弁してくれといいたいのですが。


医師も看護師も、毎日忙しく仕事をしています。
また貸しをする度にカルテ室に連絡をするような時間と手間は、いちいちかけていられません。
その現実も良くわかるがゆえに、カルテ室としてもあまり強く言えないのです。


だからといって、見過ごすわけにも行きません。
「退院後のカルテは、カルテ室で責任を持って保管・管理いたします」と明言している以上、きちんとしたルールを作って、それを院内に徹底させなければならないのです。
とにかく持ち出される際には、決められた手順を踏んでから持ち出すように、全職員に徹底させることがとても大切です。


ウッキーが今の病院に来たばかりの頃は、とにかくあまりにもずさんな管理に開いた口がふさがりませんでしたが、カルテを一冊一冊ファイリングして、棚に整理して並べて、なんとか見た目にも良い状態になってきました。
だから、いちおう、今現在棚に保管されている全てのカルテに、一度は目を通しているわけです。
とはいっても、アリバイ管理は原始的な手作業です。



さて、そんなある日。
たまたまウッキーはその日お休みだったので家にいたところ、病院から電話がかかってきました。

「ウッキーさん、どうしても見つからないカルテがあるみたいんだけど…」

急いでいるらしく、電話の相手も焦っている様子です。
ウッキーは病院へ向かいました。
探しているカルテは、短い入院を何度も繰り返している人のもので、薄いカルテが何冊も何冊もあって、一つのファイルに入りきらず、棚の端に寝かせている状態で保管しているものでした。
一番最近に入退院したカルテがほしいんだけど、それがどうしても見つからないとのことで。
ウッキーもあちらこちら探して見ましたが、見つかりませんでした。
とりあえずそのカルテをほしがっていた医師に謝り、再び探そうとカルテ室に戻ったその時。


ウッキーの脳裏に、今までのささやかな経験の一つが蘇りました。
それは以前の病院に勤務していた時、そこでも行方不明のカルテがあって。
よくよく探したところそのカルテは、棚違いの場所にぽんと置かれていました。
ウッキーはまさかと思い、本来そのカルテが保管されているべき場所の前に立ちました。
そしてその隣の棚にあるカルテを、一つ一つ調べてみたところ……



おおっっ!!
あった!!




実は、こういうことは良くあるのです。
棚の位置が良く似ている場合、自分ではちゃんと決められた場所にそのカルテを置いたつもりでも、一つ棚がずれていたということがあるのです。
ウッキーは急いで医師にカルテを届けに行きました。


ウ「すみません、すべては私が悪うございました。お叱りは受けますので」
医「いや別に怒ってないけどさ。どこにあったの?」
ウ「実は…棚違いの場所に…ありまして……」
医「なーんだ、そっかー」


快く許してくださったのですが。
おっちょこウッキーのやることです。笑って流してやってください。
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。