書類書きの一面〜裏話:ドクター編

医局でせこせこと書類書きをしていると、なにやら向こうのほうから甲高い怒鳴り声が。


「僕は絶対に書かん! 何を言われても書かん!」
「そ…そうです、よね…」
「患者が何を言ってこようが絶対に書かん! 書かんといったら書かん!」
「…そう、です、よね…」


なんだなんだ?
えらく怒鳴っているのはどこのどなた?


「そんなのは公文書偽造だ! そんなことは僕はできん!」


そろりと顔を出すと、サノ先生が青筋立てて怒っていた。
その前には首をすくめて書類を抱えている医事課のお嬢さん。
なにやら患者さんから頼まれた保険会社に提出する書類で、ちょっと手直しをして欲しかったらしく、受付で対応したそのお嬢さんもダメもとでサノ先生に聞きに来たらしいのだが。


「そんなの患者の横暴だ! 僕は嘘は書けん!」
「は、はい…」


分かった、分かったからそう怒鳴らんでちょうだいよ。
医事課のお嬢さんも泣きそうになってるじゃないよ。

こういうことは、実はよくあります。
保険会社からお金をもらうためには、医師の診断書や意見書などが必要なのですが、それに記載される内容によって、お金がもらえないことがあります。
もちろん医師側としては、患者さんもその病気になりたくてなったわけじゃないし、本当にお金に困っている人だっているし、せっかく保険金を払ってるんだからもらえるようにしてあげたいと思うのでしょう。
でも、嘘はつけませんし、嘘は書けません。
「もう一言医師に書いてくれれば保険金がもらえるのに」とわけで、後から書き足してくれ、という要望もあるのです。

その逆もあります。
つまり「コレを書かれたら保険金がおりない。だから消してくれ」。
でもそれが、明らかに嘘である場合は、やはりその要求には応じることはできません。
だからサノ先生が怒鳴るのも、無理はない。

この時の場合「他の病院ではやってくれたから」などと患者さんが言っているらしく、サノ先生はますますヒートアップ!


「他の医者はやろうが僕はやらん! 絶対にやらんからな!」


そんなに青筋立てちゃって…この後の外来はどうするのよ。
高血圧の患者さんよりも血圧上がってんじゃないの?


「この病院をクビになっても僕はやらん! 絶対にやらん!」


おおっ、いきなりどしたべ?


「こんなことさせられるんだったら僕はこの病院やめてもいい! ここをやめても僕は違う病院で医者として食っていけるからな!」


はあ、まあ、とりあえずその内視鏡の腕でねぇ。
てか、そこまで言ってないでしょ。


「公文書偽造して医師免許剥奪されるくらいなら、こんな病院やめてやる!」


おうおう、言ったれ言ったれ!


「医師免許があれば他の病院で医者としてやっていけるけど、医師免許剥奪されたらただの親父になっちまうからな!!」


(一瞬の間)


大爆笑

ごめんなさい。
大笑いさせていただきました。
まったくもってその通りだ!
このおなかぽっこりサノ先生なら、まさしくその辺を歩いているただの親父になれます。

ま、お医者さんなんて、白衣脱いで私服でいたら、どこの誰だかわかりませんけどね。

道連れ〜裏話:ドクター編

あー…今日も書類が山積だぁ…

ため息と同時に、医局の憩いのテーブルについたウッキー。
ICD-10をドドン!と置いて、ちらりをそれを眺める。

ウッキーの書類作成場所は、医局の端っこにある楕円形の憩いのテーブル。
すぐ傍に大仏先生のデスクがあるんですが、それは震度1の揺れでも大雪崩を起こし死傷者数名を出してもおかしくないような、新聞やら学会誌やら製薬会社の宣伝やらが積みに積まれためっちゃ汚いデスクなので。
憩いテーブルをちょっとずらして、大仏先生の雪崩発生超危険区域からなんとか離れます。

この憩いテーブルも、何が何やらむちゃくちゃです。
一応庶務課の人がきれいにしてくれているらしいのですが。
それにしても、相変わらずすごい。

新聞、スポーツ新聞、各種週刊誌、学会誌、薬屋の宣伝の残り。
縫合糸、ピンセット、試作品のカテーテル、ガーゼ、各種錠剤、漢方薬、お試し高カロリー飲料のパック。
シュガー、ミルク、スプーンにフォーク、箸、緑茶のティーバッグ、果物ナイフ。
誰かが買ってきたお土産(まんじゅう、せんべい、団子、あられ、ミニケーキ、お餅などなど)の残りかす。
医学書店からの請求書、旅行雑誌、温泉特集雑誌、グルメマップ。
ファミリーレストランのテイクアウトメニュー、宅配ピザのメニュー、領収書。
そしてなぜかペットボトルのお茶が大量。
さらに、残りのお弁当(一体いつのだ!)

はっきし言ってきちゃにゃい!!

それらをじろりと眺めていると。

「やあ、ウッキー君、書類書きかね」

やってきたのはM先生。
なんとなーく俳優の佐野●郎氏に似ているので、サノ先生とします。
子沢山で愛妻家のサノ先生は、内視鏡の腕が抜群にいい(という噂)。
あいかわらず白衣の下のぽっこりお腹が目立つ。

「あ、どうも。ご覧の通りです」
「ん〜また溜めたねぇ〜。こりゃ今日もかかりそうだねぇ」
「大仏先生がいつ戻ってくるかにもよりますけど」

そうなのです。
ウッキーが手がけている書類は、主に大仏先生のモノなのですが。
文字通り超多忙なため、医局に戻ってくる時間がめちゃくちゃなので、ひたすらここで待ち続けるしかないのです。
ま、その間にさっさと書類の下書きを仕上げてるんで、ちょうどいいんだけど。
ため息をついたウッキーに、唐突にサノ先生が。

「ところでウッキー君はお昼食べた?」
「あ、はい。お弁当持ってきてるんで」
「そっか…」

憩いテーブルにあった残りの弁当を見下ろして、なんかがっかりした様子のサノ先生。
どうしたんだろう?

「このお弁当さ…」
「はい?」
「中身見た?」
「いえ、見てませんけど。弁当が何か」

するとサノ先生、まるで恋愛中の女子高生みたいなため息を漏らしつつ。

コッテコテの焼肉弁当なんだよね……結構おいしいんだよね……さっき僕食べちゃったんだけどさ……このお腹じゃん……」

その時、サノ先生はウッキーをぐいっと直視し。

「ウッキー君!」

びくぅぅ!!

「んなっ、ななっ、ナンデスカ!?」

間。

「君もこの弁当を食べて、一緒にメタボにならないか!?」

…………

それが内科医の言うことですかぁぁぁぁ!!


サノ先生のお腹は、患者さんに説得力を与えません。
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