その文章のウラにあるもの

体力的にちょっと疲れた時にやる仕事。

古い外来カルテの、インアクティブ化。

これはね。
当院の医事課には、カルテを収納する専用の機械(というか棚?)があってね。
外来カルテは、その機械が管理しているデカイ箱型の棚に保管されてんすよ。
その棚と繋がっているコンピュータに「このカルテを出しておくれ」と入力すると、ロボットが棚の中でカルテを探して、「はいよ」と取り出し口に持ってきてくれる便利な棚なのですよ。
でもその棚に入れるためには、専用のファイルに外来カルテを綴じなければなりません。
そのため、新しい患者さんが来院されると、外来カルテはその専用のファイルで作られます。
このファイルがちょっと特殊でね。
プラスチック製のしっかりしたファイルで、お値段もそれなりにかかっているようです。

そんで。
当然ながら、そのロボットが取り出し・収納をやってくれる棚に、永久的にカルテを収納し続けることはできません。
棚の中がいっぱいになったら「お腹いっぱーい」となって、それ以上収納できなくなります。
そうなっちゃう前に、一定期間来院していない患者さんのカルテを抽出し、棚から取り出して、別の場所に降ろして保管するという作業があります。

別の場所。
それが今ウッキーが引きこもっている、地下のカルテ室なのですよ。

一定期間来院されていない患者さんのカルテは、地下のカルテ室にファイルのまま降ろされます。
プラスチック製のごっついファイルのままで。
このファイルのままで保存してもいいんだけど、このままだと非常にかさばる。
その上新しい患者さんは毎日来るから、新しいファイルも必要。
ファイルを毎度毎度買っていてはあまりにもコストがかかるってんで、地下で保管されている外来カルテは、古い順からファイルから外し、もっと手軽なクリアファイルに入れ替えて、ファイルを再利用することになっています。

この、ファイルからクリアファイルに入れ替える作業。
これがインアクティブ化。

ものすっごい単純作業でとても楽な仕事なので、ちょっと疲れちゃった時なんかに、の〜んびりとやっています。

前置きが長くなりましたが続き↓

原発不明癌の、原発〜裏話:思い出のカルテ編

思い出のカルテ、というわけではないのですが。
以前勤務していた先生が暇つぶしに話してくれた、お話です。



悪性新生物、つまり癌は、一つ出現すると転移することがあります。
転移。
漢字のそのままの意味のごとく、転じて移動するんです。


病名でよく見るのは↓
転移性肝腫瘍(肝臓に転移した)
転移性肺腫瘍(肺に転移した)
転移性腹膜播種(腹膜に転移した)
転移性骨腫瘍(骨に転移した)
…などです。


転移のことを英語で「metastasis」といいます。
日本語読みすると、「メタスタイティス」。
だから「メタはなし」とか「肺にメタ」とか「メタメタやなこれは」なんて言ったりします。


転移するということは。
もともと体のどこかに、癌がすでにあったということになります。
それを「原発」と言いますが。


ごくたまに、この「原発」が分からない時があります。
医者は必死になって調べますが、どこにも異常が見当たらず、やむを得ず「原発不明癌」という病名をつけます。


もうちょっと詳しく説明すると。
体の一部に悪性腫瘍と思しきものが見つかり、生検なり手術なりして、病理検査してもらいます。
すると病理から「これは転移性です」と返事が来ます。
「てことは原発がどこかにあるはず」ってんで、CTやらMRIやら骨シンチやらで、必死に探すわけです。
それでも、見つからないことがあります。



さて、そんな原発不明癌のお話。
(長い前置きやな)


ある患者さんの肺に、癌が見つかりました。
病理検査してみたところ、転移性であることが分かりました。
あらゆる検査をして原発を探しますが、見つかりません。
その患者さんは昔、目の手術をしていました。
片方の目は義眼でした。
医者はふと、その目のことについて聞いてみました。
かれこれ10年以上前に、摘出してしまったとのこと。
医者はその手術をした病院に、問い合わせてみました。
すると何と、その頃のカルテが残っていました。


肺の転移の原発は、その摘出した眼球にあった、癌だったのです。
しかもこの場合、摘出された眼球もちゃんと保存されていました。



ある患者さんの骨に、癌が見つかりました。
検査したところ、転移性であることが判明しました。
さらに検査をしましたが、どうしても原発が分かりません。
医者はその患者さんの背中に、何やら傷跡があることに気づきました。
聞いてみると、はるか昔にできものができて、それを取った時の痕とのこと。
医者は念のため、その処置をした病院に問い合わせてみました。
すると何と、その時の記録が残っていたのです。


その患者さんの骨転移の原発は、除去したその背中のできものだったのです。



この話を聞いて、ウッキーは思わずうなってしまいました。
原発不明で終わらなかったのは、最初の診療記録がきちんと残っていたからです。
(しかも標本も残っていた!)
古い記録でも、やはり大事に保管すべきなのだと、改めて思ったのでした。

カルテがない!〜裏話:思い出のカルテ編

むかぁし。
「お金がない!」っつードラマとか。
「免許がない!」っつー映画があったような気がするけど。


カルテの管理人(?)として、一番怖いもの。



カルテが行方不明!



管理しているのは人間です。間違いがあって当然です。
自分はカンペキに管理している!と自信を持っていても、カルテを扱うのは人間であり、複数の人間がカルテを扱います。
カルテの管理人のミスではなく、カルテを持ち出した人によって行方不明になる可能性も十分にあるのです。
カルテ一つ一つに発信機をつけて、毎日アリバイをチェックするくらいの時間と労力と人員とお金なんて、どこをどう頑張っても出てこないし。


でも、ウッキーのささやかな経験から一つ学んだこと。



行方不明になるカルテに限って、利用頻度がめちゃ高い。



警察が使うとか。
診断書を書かんにゃらんとか。
褥創のチェックをしたいとか。
連絡先を知りたいとかとかとか…。


そーゆーカルテに限って、貸出頻度が高く、難しい症例の場合が多いのです。
当然といっちゃ、当然ですけれども。


一番困るのは、「また貸し」です。
「あ、ちょーどよかった、そのカルテ私も見たかったのよ。ちょっと貸して」
とゆーのがどんどん広がり、しまいには「あれ、誰が持ってったっけな…」で終わるのです。
それだけは勘弁してくれといいたいのですが。


医師も看護師も、毎日忙しく仕事をしています。
また貸しをする度にカルテ室に連絡をするような時間と手間は、いちいちかけていられません。
その現実も良くわかるがゆえに、カルテ室としてもあまり強く言えないのです。


だからといって、見過ごすわけにも行きません。
「退院後のカルテは、カルテ室で責任を持って保管・管理いたします」と明言している以上、きちんとしたルールを作って、それを院内に徹底させなければならないのです。
とにかく持ち出される際には、決められた手順を踏んでから持ち出すように、全職員に徹底させることがとても大切です。


ウッキーが今の病院に来たばかりの頃は、とにかくあまりにもずさんな管理に開いた口がふさがりませんでしたが、カルテを一冊一冊ファイリングして、棚に整理して並べて、なんとか見た目にも良い状態になってきました。
だから、いちおう、今現在棚に保管されている全てのカルテに、一度は目を通しているわけです。
とはいっても、アリバイ管理は原始的な手作業です。



さて、そんなある日。
たまたまウッキーはその日お休みだったので家にいたところ、病院から電話がかかってきました。

「ウッキーさん、どうしても見つからないカルテがあるみたいんだけど…」

急いでいるらしく、電話の相手も焦っている様子です。
ウッキーは病院へ向かいました。
探しているカルテは、短い入院を何度も繰り返している人のもので、薄いカルテが何冊も何冊もあって、一つのファイルに入りきらず、棚の端に寝かせている状態で保管しているものでした。
一番最近に入退院したカルテがほしいんだけど、それがどうしても見つからないとのことで。
ウッキーもあちらこちら探して見ましたが、見つかりませんでした。
とりあえずそのカルテをほしがっていた医師に謝り、再び探そうとカルテ室に戻ったその時。


ウッキーの脳裏に、今までのささやかな経験の一つが蘇りました。
それは以前の病院に勤務していた時、そこでも行方不明のカルテがあって。
よくよく探したところそのカルテは、棚違いの場所にぽんと置かれていました。
ウッキーはまさかと思い、本来そのカルテが保管されているべき場所の前に立ちました。
そしてその隣の棚にあるカルテを、一つ一つ調べてみたところ……



おおっっ!!
あった!!




実は、こういうことは良くあるのです。
棚の位置が良く似ている場合、自分ではちゃんと決められた場所にそのカルテを置いたつもりでも、一つ棚がずれていたということがあるのです。
ウッキーは急いで医師にカルテを届けに行きました。


ウ「すみません、すべては私が悪うございました。お叱りは受けますので」
医「いや別に怒ってないけどさ。どこにあったの?」
ウ「実は…棚違いの場所に…ありまして……」
医「なーんだ、そっかー」


快く許してくださったのですが。
おっちょこウッキーのやることです。笑って流してやってください。

溢れたカゴの理由〜裏話:思い出のカルテ編

おはようございます。

……誰もいないっての。
地下室にあるこの部署で働くのはウッキーだけ。
聞こえるのは、ウッキーのむなしい独り言だけ。
あとはエレベーターが動く音か、部屋の外の水がくみ上げられている音か、1階をヒールをカツカツ言わせて歩いている足音か(アレ結構聞こえるのです)。
コンクリ打ちっぱなしの寒くて寂しいこの部屋に、有線が流れているだけありがたいと思おう。


ドアを開けるとすぐに、貸出コーナーがある。
担当者がいない時でもカルテの貸出が出来るように、貸出手順や伝票が置いてあるのよさ。
以前はボールペンも置いていたが、たった1日で誰かに持って行かれたので、もう置かないことにしている。
文房具の無断持ち出しがあまりにも多く、発信機か監視カメラでもつけたいくらいだ。


同じ台の上に、「これカルテに挟んでちょ」という書類を入れておくカゴがある。
医局で埃を被っていた青いプラスチックのカゴ。
捨てられるところを、もったいない精神を発揮してゲットしてきた。
医事課や病棟クラークが、「あ、これカルテに綴じ忘れた」という書類をここに入れて行く。
するとウッキーがそれを、一つ一つ綴じていく。
地味な仕事だが、典型的なA型のウッキーにはそれほど苦にはならない。
「もっと早く(カルテ室に)下ろさんかい!」とは思うけど。


台と垂直の位置に、二つのパイプ椅子がある。
一つは、「レントゲンの返却はこちらに」とあり、返却されたレントゲン写真を置いてもらうようになっていて。
もう一つは、「返却・サマリー完成カルテはこちらに入れてください」という札がくっついた“お買い物カゴ”が置かれている。
これも、捨てられるところをゲットしてきたものだ。


毎朝、このカゴの中に入っているサマリー完成カルテの量で、その日一日の仕事量が決まってくる。
今朝は……






溢れていた。






溢れんばかりの愛を込めて!
と言わんばかりの(誰も言ってない)カルテの量。
これ以上はどうやっても積めない。
まあ、それだけ先生方がサマリーを頑張って仕上げてくれたという証拠でもあるから、嬉しいやらヤレヤレやらなのだが。


でも良く見ると、溢れ方がちょっと違う。
サマリーが完成したカルテが、何冊もあるわけではなさそうである。
んん!? これは……



なんと。
たった一人のカルテなのに。
積み上げて50cmにもなろうかという分厚さ。



久々のツーアウト満塁逆転さよならホームラン(意味不明)である。
当院には確かに療養タイプの病棟があるとはいえ、いろーんな記録が増えに増えてとんでもない量になっている。
結局、このカルテを全部綺麗に整理し、綴じなおし、データを入れてコーディングし、台帳を作って綴じるまでに、3時間を超えた。


どれくらい入院すれば、これほどの量になるのだろう。
在院日数。




928日。




2年半オーバー?


もっと長く入院している方もいらっしゃるので。
これくらいはまだ序の口なのかもしれない。

調べたところ。
入院してから3年を超えている患者さんがいることが発覚した。

棚一つ分、確保しておいたほうが良さそうね。

ご飯前のカルテ整理〜裏話:思い出のカルテ編


想像力豊かな方やにはお勧めできません…ごめんなさい。
少々過激な表現がございます。
苦手な方はご注意くださいませ。



もうすぐお昼ご飯という時間でした。
その時、ウッキーは古いカルテを整理していました。
相変わらずボロボロで、順番もめちゃくちゃで、ホッチキスで無造作にとめられてて、しかもとじ忘れたらしい書類は両面テ

ープでむりやり貼り付けてあるというなんともすさまじいカルテだったのですが。

そのカルテは、少し分厚いなと思いました。
ただ単に、書類が多くて分厚いという感じではありません。
入院期間も、そんなに長いほうではありません。
ご年配の方のカルテ…というわけでもありません。
(ご年配の方の場合は、いやがおうでも分厚くなる時がある)

なしてこないに分厚いね?

ウッキーは、ぱらりと捲ってみました。



!!!!



目に飛び込んできたのは。


ぐしゃぐしゃに潰れた、足先の写真……!




骨が出てます。
爪が砕けてます。
肉がはみ出てます。
これまたいい具合に砕けた骨と爪と潰れた肉が混ぜ合わさってます。
血がだーだーに出てます。



びっくりして、思わず一旦カルテを閉じてしまいました。
カルテが分厚かったのは、そのような写真がたくさん貼ってあったからだったのです。
どうも、足の上に大きな石を落としてしまったらしく。
足が下敷きになってしまったようでした。


うう…痛かったでしょうに……


ちゃんと手術をして、リハビリをして、無事退院なさったようでなによりです。
ホッチキスの針を取り、順番どおりに並べ替え、綴じなおし、データを入力して、ファイルに入れて、棚に戻したところで、

ちょうどお昼ご飯の時間になりました。

……お弁当には、ハンバーグが、入ってました……

ご飯を食べる前の、カルテ整理のひとこまでした。
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。